5mmオーバーでもNG？機械式駐車場サイズオーバーの実際と車庫証明の落とし穴

「5mmくらい、誤差の範囲でしょ？」新しい車を検討しているとき、あるいは引っ越し先の駐車場を確認したとき、そう自分に言い聞かせたくなる気持ち、本当によく分かります。パパなら「理論上、ミラーを畳めば入るはず」と計算し、ママなら「毎日使うものだから、少しでも楽に停めたい」と直感的に不安を感じる。そんな家族の光景が目に浮かびます。

しかし、機械式駐車場において、その「たった5mm」は決して誤差ではありません。それは、愛車を守れるかどうかの境界線であり、最悪の場合、マンション全体の住民を巻き込むトラブルの引き金にもなり得ます。この記事では、機械式駐車場のシビアなサイズ制限の裏側にある仕組みから、もしオーバーしてしまった場合のリスク、そして車庫証明や保険のリアルな現実まで、徹底的に深掘りしました。「知らなかった」では済まされない機械式駐車場の真実を、一緒に見ていきましょう。

なぜ「たった5mmオーバー」でも致命的なのか？【構造と安全基準の真実】

機械式駐車場の入口に掲げられた「全長・全幅・全高」の数字。これらは決して「目安」ではなく、機械が安全に動作するための「絶対守るべきルール」です。なぜ、これほどまでに数ミリ単位の差が重要視されるのか、その構造的な理由から解説します。

機械式駐車場の高さ・幅制限を決める「パレット」と「センサー」の仕組み

機械式駐車場は、車を載せる「パレット」と呼ばれる鉄板が、上下左右に複雑に動き回る精密機械です。このパレットのサイズは、隣り合うパレットや機械の柱と数センチの間隔で設計されています。

• 光電センサーの監視： 多くの駐車場には、パレットからはみ出した車体を検知するセンサーが備わっています。5mmオーバーしているだけでセンサーが反応し、機械が作動を停止させる設定になっていることも珍しくありません。
• 物理的な接触リスク： センサーをすり抜けたとしても、パレットが移動する際の振動で車体が揺れ、柱や隣の車に接触する危険があります。「静止状態で入っている」ことと「動作中に安全である」ことは別物なのです。

車検証の数値と「実測値」は違う？メーカー基準とマンション独自の制限

ここで厄介なのが、カタログ上のサイズと実際のサイズにはズレがあるという点です。

さらに、マンションの管理規約では、駐車場の劣化や安全マージンを考慮して、メーカー発表の制限値よりもさらに数センチ厳しく設定されているケースもあります。「メーカーの仕様書では1850mmまでいけるはずなのに、うちのマンションは1800mm制限だ」というギャップは、こうした背景から生まれます。

ミラーやアンテナ、タイヤの向きで変わる「入る・入らない」の境界線

「計算上は入るはず」という理屈を打ち砕くのが、日常のちょっとした操作ミスです。例えば、タイヤがわずかに斜めを向いた状態で入庫すると、直進状態よりも車幅が実質的に広がります。また、ドアミラーを畳み忘れたり、自動アンテナが伸びたままだったりすると、それだけで数センチのサイズオーバーが確定します。機械は「たまたま今回は大丈夫だった」を許してくれません。100回中1回でも操作を誤れば、即座に事故へと繋がる。それが機械式駐車場のシビアな現実です。

サイズオーバーを強行した先に待つトラブルの現実

「少しだけはみ出しているけれど、今のところ問題なく動いているし……」と、そのまま使い続けることのリスクは、単に「車が傷つく」だけでは済みません。

「擦った・挟まった」だけでは済まない？重大事故の発生事例

機械式駐車場での事故は、往々にして破壊的な結果を招きます。パレットが上昇する際に天井の梁（はり）に車をぶつけてしまったり、横移動の際に出っ張ったタイヤが柱に挟まったりすると、車体は紙屑のように簡単にひしゃげてしまいます。特に怖いのが「連鎖事故」です。一台の車が引っかかったことで機械のバランスが崩れ、他のパレットに載っていた住民の車まで落下したり、破損したりするケースも報告されています。

自己責任と判断されるケースと、車両保険が適用されるかのボーダーライン

万が一事故が起きたとき、最も大きな問題となるのが「保険」です。結論から言うと、「サイズ制限を超えていることを知りながら入庫していた」場合、保険金が支払われない、あるいは大幅に減額されるリスクが極めて高いです。

• 重大な過失： 駐車場に明記された制限を守っていないことは、保険会社から「重大な過失（または故意）」と見なされる要因になります。
• 車両保険の適用外： 自分の車を直す車両保険が使えないだけでなく、相手（マンション管理組合や他住人の車）への賠償責任も、保険が降りずに自己負担となる可能性があります。

機械故障の損害賠償はいくら？管理会社や他住人との責任問題

もし自分の車が原因で機械を壊してしまった場合、その修繕費用は数百万円単位になることもあります。さらに深刻なのは、修繕が終わるまでの間、他の住民が駐車場を使えなくなる「営業損失」や「不便への補償」です。「5mmくらいなら……」という安易な判断が、マンション内での人間関係を修復不能なまでに悪化させ、経済的にも家庭を窮地に追い込む。そんな未来を想像してみてください。

車庫証明・保険・保証への深刻な影響

「駐車場に入りさえすれば、書類上のことはなんとかなる」と考えているなら、それは非常に危険なギャップかもしれません。手続きの現場では、数字がすべてを左右するからです。

そもそもサイズオーバーの車で「車庫証明」は取得可能なのか？

結論から言うと、駐車場の制限サイズを超える車での車庫証明取得は、原則として認められません。車庫証明の申請時には、保管場所の所在図・配置図を提出します。機械式駐車場の場合、そのパレットの制限寸法と、申請する車の車検証上のサイズが照合されます。警察署の担当者によりますが、車検証の数値が駐車場の制限を1mmでも超えていれば、その時点で受理されないケースがほとんどです。

保険金が支払われない！？約款に潜む「無謀な使用」という落とし穴

「事故を起こしても車両保険があるから大丈夫」という考えも、サイズオーバーの状態では通用しない恐れがあります。保険契約の約款には、多くの場合「著しい過失」や「法令・公序良俗に反する使用」に関する免責事項が含まれています。駐車場のサイズ制限を無視して入庫し、事故を起こした場合、保険会社からは「本来入るべきではない場所に無理やり入れた＝故意に近い無謀な行為」と判断される材料になります。

販売店の「皆さん入れてますよ」を鵜呑みにしてはいけない理由

車を買う際、ディーラーの営業マンから「この車種なら、このタイプの駐車場に皆さん入れてますから大丈夫ですよ」と言われることがあるかもしれません。しかし、その言葉に法的責任はありません。実際に事故が起きたり、車庫証明が通らなかったりしても、営業マンが責任を取ってくれるわけではありません。「物理的に入る」ことと、駐車場の「規約に適合している」ことは全く別物です。

サイズギリギリの車を検討する際の「安全チェックリスト」

「理屈では分かったけれど、どうしてもこの車に乗りたい！」という場合、最終判断を下す前に必ずチェックすべき項目があります。直感に頼らず、数値で冷静に判断しましょう。

カタログ値ではなく「実寸」で測るべき3つのポイント

車のカタログに載っているサイズは、あくまで「標準状態」の数値です。以下の3点は、必ず実測または詳細な仕様確認を行ってください。

駐車場メーカーが想定している「安全マージン」の正体

多くの機械式駐車場メーカーは、カタログ上の制限数値に対して、数センチの「遊び（マージン）」を設けて設計しています。しかし、これは「オーバーしてもいい余裕」ではなく、「車の揺れや操作の誤差を吸収するための命綱」です。パパが計算機を叩いて「あと3mmの隙間がある」と結論づけても、それは安全のためのマージンを使い果たしている状態です。台風の強風でパレットが揺れたり、タイヤの空気圧が少し高くなったりしただけで、その3mmは簡単に消失してしまいます。

契約前に必ず確認！「管理規約」と「制限ラベル」の読み解き方

マンションの駐車場を利用する場合、機械に貼られた「制限ラベル」だけでなく、管理規約の細則まで目を通すことが不可欠です。まず管理会社に最新の図面数値を問い合わせましょう。また、「サイズオーバー車の入庫を一切禁ずる」と明記されている場合、たとえ物理的に入ったとしても、発覚した時点で契約解除や損害賠償の対象になります。可能であれば、ディーラーの試乗車を借りて、実際にパレットに入れてみるのが最も確実です。

マンションのサイズ制限は交渉で変えられる？

「あと数センチ、制限が緩ければ入るのに」とパレットを眺めて溜息をつく前に、マンションという共同体の仕組みを理解しておく必要があります。個人の都合で制限を書き換えることは不可能に近いですが、マンション全体としての「ルール変更」なら道はあります。

管理組合の決定権と「変更申請」に必要な手順

マンションの駐車場のサイズ制限を変更するには、管理組合の総会での決議が必要です。まずは管理会社に、現状の制限数値が「機械の限界」なのか、それとも「安全上の自主ルール」なのかを確認します。その上で、理事会に対して「最近の車は大型化しており、今の制限では借り手が減る可能性がある」といった、マンション全体の資産価値や収支に関わる視点で提案を行います。

ピットリフト更新時の“車サイズ緩和”事例

希望が持てるのは、機械の「寿命」による交換時期です。機械式駐車場の更新（リプレース）のタイミングで、最新の「大型車対応パレット」を導入するマンションが増えています。SUV人気に応え、一部の段の高さ制限を上げる「ハイルーフ化」や、パレット自体の幅を広げたタイプへの交換など、大規模修繕に合わせて声を上げる価値は十分にあります。

立体駐車場リノベーションの現実コスト

ただし、現実は甘くありません。パレットのサイズを広げるリノベーションには数千万単位の費用がかかることも珍しくありません。「一部の車好きのために、全員の積立金を使うのは不公平だ」という反対意見が出る中で、住人同士の合意形成を行うのは非常に難しい壁となります。

まとめ｜「5mmの油断」が取り返しのつかない事態を招く前に

「5mmくらい、入ってしまえば勝ち」という考えは、機械式駐車場においては通用しません。その5mmは、パレットが揺れたときに車体を削る「接触距離」であり、事故が起きたときに保険会社から「契約違反」と突き放される「免責距離」でもあるからです。

サイズ制限は「安全の限界点」だと認識しましょう。書類が通らない、保険が降りないという事態は、想像以上に生活を圧迫します。カタログ値を信じすぎず、必ず現地の制限ラベルと管理規約を確かめてください。もし今の駐車場にどうしても入らないなら、近隣の平置き駐車場を探すか、サイズに収まる車種から最高の相棒を見つける。それが、賢く、安全にカーライフを楽しむための唯一の近道です。

参考文献
・公益社団法人 立体駐車場工業会「機械式駐車場の安全に関するガイドライン」
・国土交通省「機械式駐車場の適正な維持管理について」
・一般社団法人 日本自動車連盟 (JAF)「車庫証明の申請方法と注意点」
・各マンション管理組合 標準管理規約（駐車場の使用に関する細則）