新車を契約したときの高揚感、最高ですよね。「やっと理想の車に出会えた!」とワクワクしながらハンコを押したのも束の間、営業担当者から告げられる納期に愕然とすることがあります。
「納車は3ヶ月後になります」
「えっ、今の車の車検、来月で切れちゃうんですけど……代車借りられますよね?」
「すみません、長期間の代車はご用意できないんです」
このやり取り、実は今の新車購入で非常によくあるトラブルなんです。我が家も車の買い替えを検討した際、「納車まで足がない期間」が一番の懸念点でした。車が生活必需品である以上、「乗れない期間」があるのは致命的です。
そこで今回、私たちサルヂエファミリーが、トヨタやホンダなどの主要メーカーやディーラーの実態を徹底調査しました。「なぜ代車を貸してくれないのか」という業界の裏事情から、メーカーごとの傾向、そして万が一借りられなかった場合の賢い乗り切り方まで、忖度なしでまとめます。
焦って契約する前に、まずは「納車までの足」の確保について、冷静に対策を立てていきましょう。
なぜ「納車まで代車が出ない」ケースが多いのか?
そもそも、数百万の買い物をした上得意客に対して、なぜディーラーは「代車すら貸せない」という塩対応になるのでしょうか?
「ケチなんじゃないの?」と感情的になりがちですが、調べてみるとディーラー側にも「貸したくても貸せない」切実な経営事情があることがわかってきました。
代車は「修理や車検客優先」が基本
まず大前提として、ディーラーが保有している代車の主な目的は「整備入庫のお客様用」です。
車検や修理で数日間車を預かる際、その間の足として貸し出すために用意されています。これらは数日で回転していくため、効率よく多くのお客様に貸し出せます。
一方、新車の納車待ちは1ヶ月〜半年、長いと1年以上かかることもあります。たった1人の新車購入客に1台の代車を数ヶ月間貸してしまうと、その間、何十人もの車検客に代車が出せなくなってしまいます。
ディーラーの収益構造上、定期的なメンテナンス(車検・点検)は非常に重要な収入源です。既存のお客様を断ってまで、新車客1人に長期間車を拘束されるのは、店舗運営として非常にリスクが高いのです。
販売店ごとの裁量(フランチャイズと直営の違い)
「トヨタだから安心」「日産なら大丈夫」と思いがちですが、実は同じ看板を掲げていても、運営会社が異なれば対応は全く違います。
日本のディーラーの多くは、メーカー直営ではなく、地元の企業が運営する「フランチャイズ(販売会社)」です。
例えば、同じ県内にある「トヨタ〇〇店」でも、A社が運営する店舗とB社が運営する店舗では、代車の保有台数や貸出ルールが異なります。「隣町の店舗では貸してくれたのに、こっちはダメだった」という現象が起きるのはこのためです。
つまり、メーカーの方針というよりは、「その販売会社(販社)の社長の方針」や「店舗の店長判断」によるところが大きいのが現実です。
保険・台数・在庫の制約による背景
代車を維持するにはコストがかかります。車両本体代金だけでなく、自動車税、そして一番ネックになるのが「任意保険」です。
不特定多数の客が乗る代車には、年齢制限なしの業務用の保険をかける必要があり、これが決して安くありません。
最近は経費削減のため、各店舗が保有する代車の台数をギリギリまで減らしている傾向にあります。さらに、昨今の半導体不足による新車供給遅れの影響で、下取りに入った車を代車に回そうとしても、その下取り車自体が高値で売れるため、中古車市場に流して換金してしまうケースも多いようです。
「物理的に車がない」というのが、現場の偽らざる本音と言えるでしょう。
メーカー別「納車までの代車対応」比較一覧
では、実際にメーカー(販売チャネル)ごとの傾向に違いはあるのでしょうか?
SNSでの口コミや、複数のディーラーへのヒアリング、知人たちの体験談をベースに、各社の傾向を整理しました。ただし、前述の通り最終的には「販売店ごとの判断」になるため、あくまで目安としてご覧ください。
トヨタ/ホンダ/日産の傾向(大手3社)
販売台数が多い大手3社は、基本的に「納車待ちの長期代車はNG」というスタンスが強い傾向にあります。
- トヨタ
圧倒的な販売台数を抱えているため、常に代車が不足気味です。「納車まで1ヶ月以内なら調整できるが、それ以上はレンタカーを実費でお願いしている」という対応が多く見られます。ただし、資本力のある大規模な販売会社であれば、レンタカー会社と提携していて、格安で貸してくれるケースもあります。 - ホンダ
販社ごとの独立色が強く、対応が分かれます。都市部の大型店ではシビアな一方、地方の小規模な店舗では柔軟に対応してくれることも。「N-BOX」などの人気車種は納期が長くなりがちで、その間の代車確保は激戦です。 - 日産
こちらも基本は整備代車が優先です。ただし、電気自動車(EV)などの戦略車を販売する際は、キャンペーンの一環としてモニター車などを一時的に貸してくれる稀なケースも聞かれますが、過度な期待は禁物です。
スズキ/ダイハツ/スバル/マツダ/三菱(軽・地方強メーカー)
一方、地域密着型の販売店が多いメーカーや、特定のファン層が厚いメーカーはどうでしょうか。
- スズキ・ダイハツ
ここは少し特殊です。正規ディーラーだけでなく、町の整備工場(サブディーラー)が販売しているケースが多いからです。整備工場系の販売店は、下取りした古い軽自動車を大量にストックしていることがあり、「ボロくてもいいなら、納車まで乗ってていいよ」と、融通を利かせてくれる可能性が比較的高めです。 - マツダ・スバル・三菱
ユーザーとの距離が近い傾向にありますが、会社の規模としては大手3社より小さいため、代車の絶対数が少ないのが悩みどころ。「担当営業マンが自分の個人の車を貸してくれようとした(※現在はコンプラ的にNGな場合が多い)」なんて逸話も聞きますが、基本的には「ないものはない」と断られることが多いです。
販売店による例外対応(営業担当者次第の現実)
結局のところ、メーカー名で一概に「出る・出ない」を判断するのは危険です。もっとも重要なのは「営業担当者がどれだけ社内で調整してくれるか」にかかっています。
「このお客さんは今後も長く付き合ってくれそうだ」「任意保険もウチで入ってくれる」といったメリットがあれば、担当者が店長に掛け合って、試乗車落ちの車や、入庫したばかりの下取り車を一時的に回してくれることもあります。
逆に、値引き交渉で限界まで叩いた末の契約だと、店舗側もこれ以上コストをかけられないため、代車の相談には冷ややかになるでしょう。
「代車が出るかどうかは、商談の段階での関係構築次第」というのが、残酷ですがリアルな真実です。
代車が出ない時の選択肢とリアルな費用感
「ディーラーに頼み込んでもダメだった……」
そうなると、自力で足を用意しなければなりません。「納車までの1〜3ヶ月、どうやって凌ぐか」が課題になります。
ここで感情的に「冷たいディーラーだ!」と怒っても状況は変わりません。ここはパパの出番。冷静に電卓を叩いて、最もコストパフォーマンスが良い方法を比較検討しましょう。
短期レンタカーを使う場合の費用・注意点
まず思いつくのがレンタカーです。しかし、大手レンタカー会社で普通に借りると、コンパクトカーでも1日6,000円〜8,000円程度かかります。これを1ヶ月借りたら20万円超え……。新車のオプション代が吹っ飛んでしまいますね。
そこで検討したいのが「マンスリーレンタカー(月極レンタカー)」です。
これは、中古車を活用した格安レンタカー店などが提供しているサービスで、1ヶ月単位で割安に借りられます。
- 費用の目安:軽自動車やコンパクトカーで月額3万円〜5万円程度(保険料込みの場合が多い)。
- 注意点:車両が古い、ナビが古い、禁煙車が選べないことがあるなど、快適性は多少犠牲になります。また、店舗数が少ないため、自宅近くで探すのが難しい場合もあります。
「走れば何でもいい」と割り切れるなら、これが最も手軽な選択肢です。
カーリースを“つなぎ利用”する方法と相場
最近増えているのが、「1ヶ月単位で契約できる中古車カーリース」です。
レンタカーとの大きな違いは、「ナンバープレートが『わ』ナンバーではない」こと。ご近所さんに「あ、レンタカー生活してるんだ」と思われたくない方には意外と重要なポイントかもしれません。
- 費用の目安:月額1万円台〜+初期費用。ただし、短期解約違約金や事務手数料がかかるプランもあるため、総額での計算が必須です。
- メリット:自分の駐車場で車庫証明を取る必要がある場合もありますが、比較的状態の良い車が選べる傾向にあります。
「ニコノリ」や「定額カルモくん」などの大手サービスの中には、即納車可能な中古車リースを展開しているところもあるので、納車までの「つなぎ」として利用できるか問い合わせてみる価値はあります。
保険やガソリン代など、見落としがちな出費ポイント
ここでママの鋭いチェックが入ります。「車両代だけ見てない? 保険はどうするの?」
ここが最大の落とし穴です。
- レンタカーの場合:基本料金に保険が含まれていることが多いですが、「免責補償制度(CDW)」などはオプション(1日1,000円〜2,000円)の場合があります。万が一の事故で自己負担が出ないように加入すると、意外と高額になります。
- カーリースの場合:自賠責保険は含まれていても、任意保険は自分で加入する必要があります。現在乗っている車の任意保険を「車両入替」でリース車に切り替えられるか、保険会社に確認が必要です。
- 今の車の下取り:車検ギリギリまで今の車に乗る場合、車検が切れた状態で下取りに出すと査定額が下がったり、引き取り費用がかかったりすることがあります。
車両代だけでなく、「保険料+手続きの手間」まで含めたトータルコストで判断することが重要です。
ディーラーで代車を借りるための交渉テクニック
ここまで「借りられない場合」の話をしてきましたが、やはり無料で借りられるならそれに越したことはありません。
私たち消費者がディーラーと交渉する際、どのタイミングで、どう切り出せば成功率が上がるのでしょうか。現役営業マンの本音も交えた「交渉の勘所」を紹介します。
「契約前に相談する」が最も有効な理由
鉄則中の鉄則ですが、「ハンコを押した後」に交渉しても勝ち目はありません。契約が成立した時点で、こちらの交渉カードはなくなっているからです。
代車の相談は必ず「商談の最終局面、契約直前」に行いましょう。
「この車、すごく気に入ったし、予算も納得した。でも、納車までの足がないことだけがネックで契約できない。もし納車までの間、どんな車でもいいから足を確保してくれるなら、今ここで決めます」
この一言が最強です。営業マンにとって、目の前の契約(ノルマ達成)は何としても取りたいもの。「納車までの代車」というコストを払ってでも、契約を取るメリットがあると判断させれば、奥から店長が出てきて特例が認められるケースがあります。
点検予約や整備代車のスキマを狙う裏ワザ
もし契約後に納期遅れが発生してしまった場合はどうするか。
単に「代車貸して」と言うのではなく、「車検切れまで今の車に乗るつもりだったが、納期が延びたせいで車検を通さないといけなくなる。その間のつなぎだけでも何とかならないか」と相談しましょう。
また、長期は無理でも、「週末だけ」「雨の日だけ」といったスポット利用なら、試乗車や代車の空きを貸してくれることがあります。
「全部丸投げ」ではなく、「自分も困っているが、譲歩もする」という姿勢を見せることで、相手の協力を引き出しやすくなります。
代車条件を交渉する時の言い回し例
最後に、具体的な交渉フレーズをいくつか用意しました。
- NG例:「高い車買ったんだからサービスしてよ!」
感情的で、クレーマー扱いされるリスクがあります。 - OK例(下取り調整):「今乗っている車の下取り価格を少し下げてもいいから、その分でレンタカー代を一部負担してもらえませんか?」
実質的な値引き交渉ですが、名目を「代車費用」にすることで通りやすくなることがあります。 - OK例(納車調整):「今の車の車検が〇月〇日までなんです。もし代車が出せないなら、納車をそれに間に合わせると確約してほしい。間に合わない場合の補償(代車)を一筆書いてもらえますか?」
理屈派パパ向けの攻め方です。納期遅れに対するリスクヘッジを契約書や覚書に残す交渉です。
まとめ|納車まで代車が出ないときも焦らなくてOK
新車購入の喜びを「足がない」不安で台無しにしたくないですよね。今回の調査でわかったポイントを整理します。
- 期待値コントロール:大手メーカーほど代車は出にくい。「出たらラッキー」程度に思っておく。
- タイミングが命:代車交渉は「契約のハンコを押す前」に、契約条件の一つとして提示する。
- 代替案の準備:ディーラーがダメなら、格安のマンスリーレンタカーや短期カーリースを比較検討する。
メーカー対応に差はあるが、“借りる前提”で契約しないのがコツ
メーカーや店舗によって対応は千差万別ですが、共通しているのは「代車は義務ではない」ということです。
「きっと何とかしてくれるだろう」という甘い見通しで今の車を手放してしまうと、後で痛い出費を被ることになります。
商談の初期段階で「納車までの足はどうなるか?」を明確にし、書面に残すか、録音するくらいの慎重さが必要です。
短期リースやレンタカーで柔軟に乗り切るのが賢い選択
もし代車が出なくても、落ち込む必要はありません。
最近は「車のサブスク」的なサービスが充実しています。これを機に、普段は乗らないような車種をマンスリーレンタカーで借りて、「納車までの期間限定ライフ」を楽しむのも一つの手です。
家族会議で「納車までの予算」もしっかり組み込んで、賢くスムーズな乗り換えを実現しましょう!

